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乗り物不眠症

 私は乗り物内で眠れない質だ。電車、車、船などなど。とりわけ飛行機がいけない。普段はそれほど困ることはない性質だが、飛行機の、それも国際線ともなると話は別。一二時間眠れないのは辛い。しかもそれは眠ろうとする努力をした挙げ句の果てのことなので、なおのこと辛い。
 辛くなる過程はこうだ。まず海外へ出かけるときは、前日の睡眠時間を削るところから入る。午前零時をはるか回る頃まで起きていて、できるだけ短時間の睡眠で済ます。そして成田空港へ向かう電車でももちろん眠らない(乗り物内で眠れないからもともと眠れない)。そしていよいよ機内へ入ると、機内食の時間を心待ちにする。アルコールの力を借りようというわけだ。まず手始めに飲み物が運ばれてくると、必ずビールと日本酒を一瓶頼む。小袋入りのおつまみや、時には持参したさきイカなどを、匂いを気にしながらぱくつき、ビールを飲み干し、日本酒を傾けているとほどなく食事となる。ここでさらに料理によって赤か白を選択しワインをいただく。しかも食事中に必ずおかわりをするからこれでワイン二本追加だ。これだけのアルコール飲料を空けて、食事も完食。寝不足に満腹感とほどよい酔い加減という万全の体制で、さて、いよいよ眠る準備に入る。背もたれをリクライニングし、腰の下には枕をはさみ、毛布にくるまる。機内灯も落ちた。目を閉じる。万全だ。
 ところが眠れない。間違いなく地上の生活においては眠くなる条件がそろっているにもかかわらず、である。目を閉じているのに、瞼の下で目は冴える一方だ。もぞもぞと寝心地の悪い椅子の上で身体の向きを変えたりしているうちに、周りでも寝ずに起きている客は思い思いにテレビを見始める。最近は向かい側の背もたれにモニターがついていて、各自が観たい番組を選べるようになっている機種が増えたが、これがまたいけない。ちょっとでも目を開けると、あちこちで様々な番組が流れている。すると、やはり気になるというのが人情であろう。そして、その中の誰かが観ている番組のストーリーが気になりだしはじめるともうだめだ。結局このあたりで早々と降参し、自分もその番組を肘掛けに仕組まれているリモコンを使って呼び出して観始めてしまう。そしてそうなると大抵後三本くらい立て続けに観るはめになる。普段家ではほとんど映画やテレビを観ない私も、このときばかりは画面に釘付け。そういえば「タイタニック」も「ミリオン・ダラー・ベイビー」も、全て飛行機の中で観たっけ。眠ることを諦めた私としては、映画館へ行かずに観られて儲けた儲けた、と思いつつ、暗いのをいいことに、こみ上げる嗚咽をかみ殺しながら随分涙を流しもした。そしてどんなに泣いても、やはり眠れないことには変わりがなかったのである。こちらも本当は泣きたい気分になる。
 こうした努力を常々重ねていたわけだが、そうはいっても、これまで起きていて良かった、と思えることにも二度ほど出くわした。
 一度目は、ヨーロッパのどこかの国からの帰国の際、寝静まった機内に機長の静かな声で控えめなアナウンス。「皆様、珍しいことですが左側の窓の外にオーロラがご覧いただけます。」。小さな窓から目をこらす私には水平線に横一筋に走る緑の線でしかなかったが、それでも私にとってオーロラとの出会いという大切な記憶である。
 そしてもう一度は、ダラスからチリのサンチアゴへ向かう、やはり静かな機内で見るともなく外を見ていたとき。ぼんやりと、この飛行機は赤道をまたいで南半球へ行くんだなぁ、などと考えていたとき、窓の向こうに遠く稲妻ショーが始まった。上から下へ、時には左から右へ、右から左へ、次々に稲妻が空中を走る。機体に落ちる心配を感じるほど近くではなかったので、不思議に安らかな気持ちで観た美しい自然の光景であった。
 こうして私は飛行機で毎回眠れぬ夜を過ごしてきたのであった。
 ところが最近、やはり寄る年波のせいか、乗り物で眠れるようになった。仕事の後、上司や部下と大いに呑んで帰る道すがら、最寄りの駅へと私を運んでくれるはずの電車に乗り込むと、運良く席が空いているではないか。そして電車の揺れに心地よく身を委ねていた私は、いつの間にか気持ちよく眠ったのである。目が覚めたときは最寄り駅を遙か後にしていたことは言うまでもない。やれやれ。こんなことならこれからもずっと不眠症のままでいる方がいいのかもしれない。

2007年07月21日 | Comments(2) | Trackback(1) | 遠い音楽日記
コメント
ありがとうございます
>ciapoohさん

阿川佐和子さんは、こうした文章(私の文章と同列に書いてしまうのは失礼かもしれませんが)を毎月数誌に発表されるようなご商売をされておられるわけで、やはり足下にも及ばぬものがあります。

ですが、がんばって次作にも取り組みますのでまた読んでくださいね!
ウォーゼル URL 2007年07月22日 10:55:56 編集
No title
 記念すべき第一作、おめでとうございます!
 オーロラのエピソード始め、『乗り物不眠症』もそう悪いことばかりではないのですね。
 お後がよろしいようで…♪
ciapooh URL 2007年07月21日 22:57:33 編集

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あまりブドウの品種には詳しくありませんが、カベルネと同様に重厚感がありますが、カベルネよりも甘味があるように思いました。樽の香も良く、大変洗練されたワインだと感じました。開栓後デキャンタージュせずにおいしくいただけ、2日後でも十分に楽しめました。友人のソ
ワインを攻める 2007年08月03日 22:10:22
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